音楽のように

ヒストリカルクラシックのブログ

私の好きなクラシック音楽 その2

ヴィルヘルム・ペッテション=ベリエル 『天の星のように』

 

ペッテション=ベリエル(18671942)という作曲家をご存知でしょうか?

 

北欧の音楽といえば、どの作曲家をイメージするでょうか?

グリーグシベリウス、ニールセン。

おそらく一般的に思い浮かべるのはその3人ではないでしょうか?

 

グリーグノルウェーの、シベリウスフィンランドの、ニールセンはデンマークの、それぞれの国を代表する素晴らしい作曲家です。

 

ではスウェーデンは?

 

あまり突出した才能を持つ作曲家がいないのではないかと思われがちですが、ステンハンメル、アルヴェーンという二大巨頭をはじめとして、とても優れた作曲家が実はたくさん存在します。私はその層の厚さゆえに、スウェーデンのある特定の作曲家が、他の北欧諸国のようには有名にならなかったのではないかと推測しています。

(なお、グリーグシベリウススウェーデン語の話者であったことは特記すべき点でしょう)

 

その中の一人がベリエルです。

 

時代はロマン派、国民楽派の時代。

ロマン的な抒情を湛えつつ、民族的な旋律、リズムをとりいれた楽曲をベリエルも作曲しました。

 

代表作にして日本でも最も有名なのはピアノ曲集『フレーセーの花々』でしょう。

グリーグの『抒情小曲集』の影響は明らかで、とても美しく詩的なピアノ小品たちです。

フレーセーというのはベリエルが愛して住んだ湖に浮かぶ島のことで、ベリエルの自然への愛情をうかがいしることができます。

 

一方で、ベリエルは辛口の批評家、そしてニーチェのドイツ語からスウェーデン語への翻訳者としても知られています。

きっと自分に対してはとても厳しい人だったのでしょう。しかしその曲は優しい、細やかな感情にあふれています。

 

歌曲『天の星のように』

 

ベリエルはまた多くの歌曲を残しています。

その中でも私がもっとも気に入っているのが『天の星のように』です。

この歌曲はベリエル自身が作詞しています。

歌曲の理解には歌詞が必要かと思いましたので、訳出してみました。

拙い訳ですが、参考にされてください。

 

Som stjärnorna på himmelen, när natten faller på, 

så tindrade hans ögon, så klara och så blå, 

så röder var hans mund, 

som rosorna i lund 

om våren. 

 

Men skyarne församlades och solen vände bort, 

ty livet liksom kärleken och våren är så kort. 

När löven föllo av, 

de föllo på hans grav, 

den tida

 

Om alla träd i skogarna och böljorna de blå, 

om alla markens blomster hade fåglalungor små, 

de kunde ej ändå 

min hjärtesorg förmå 

att sjunga.

 

対訳

 

夜が訪れ、天に星がきらめくように

いつも彼の瞳は閃いていた

それは透き通って、青かった

彼の唇は春の森に咲くバラのようだった

 

しかし雲が集まり日光が遮られた

そう、人生は愛や春のように儚い

木葉が落ちるとき、

それは彼の墓の上に落ちるのだ

 

森のすべての木々をみおろし、

あらゆる青い波を渡った猛禽たちでさえ

ここではどの花の前でもちっぽけで

私の心の痛みが

どこからくるのか

歌うことはできなかったのだ

 

 

解釈

 

夜から昼へ、

花咲く春から木葉の落ちる晩秋へ、

視線が移りかわっていきます。

青春や人生の儚さが自然の描写に合わせて表現されます。

 

そして視点はメタ的になり、

世界を見渡す神のような視線に飛翔します。

それでも真実は変わることなく

ただよりどころのない心の痛みをかんじている。

 

私はこのように解釈しました。

みなさまはいかがでしょうか?

お薦めの演奏

①ニコライ・ゲッダNicolai Gedda  ジャン・アイロン(ピアノ)盤

 1980年 Bluebell

ニコライ・ゲッダ(1925‐2017)はスウェーデンの名テノールです。とても多くの言語をあやつり、例えばイタリアの歌曲はベルカント唱法で歌うなど、その言語に応じて歌唱法を変えるということでも知られるおなじみの歌手です。そのゲッダが母国語で歌うと、このようになるのですね。ゲッダ自身がこの曲をとても愛していることがよく分かるような、そんな情感たっぷりな、本当に美しい歌唱です。このCDははじめに7曲、『フレーセーの花々』が入っていてそちらも大変すばらしい演奏です。Esther Bodinさんのピアノです。

 

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ゲッダ ジャン・アイロン盤

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ゲッダ ジャン・アイロン盤


②ニコライ・ゲッダNicolai Gedda ニルス・グレビリウス 盤

 1965年 Swedish Society

 こちらはオーケストラ伴奏版です。ピアノ伴奏版が定番ですが、こちらもなかなか良いです。少しゆっくりめにたっぷりと歌い上げています。ゲッダの伴奏ではありませんが、名指揮者ヴェステリヴェリのピアノが聴ける希少なCDでもあります。

 

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ゲッダ グレビリウス盤

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ゲッダ グレビリウス盤


まとめ

 他の北欧諸国の音楽に比べてスウェーデンの音楽に私が感じるのはドイツ、フランスなどの中央ヨーロッパ諸国の音楽との近似性です。首都ストックホルムは、ヴェルディの『仮面舞踏会』でも知られるグスタフ三世の時代には北のパリと言われるほどに隆盛を極め、以降、北欧一の文化都市となります。文学、絵画との交流もあり、音楽界も一周辺地域としての域を超えた存在感をもっていて、繰り返しになりますが、やはり北欧の中心としてたくさんの偉大な作曲家を生んだのだと思われます。ベリエルはワーグナーの影響を強く受けましたが、『フレーセーの花々』他で感じられるのはむしろシューマン的な世界なのではないかと思います。交響曲やヴァイオリン協奏曲などとても素敵な大曲がありますが、フレーセーのようなピアノ小品に、そして『天の星のように』のような小さな歌曲にこそベリエルの魅力がつまっている、そんな気がします。