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ヒストリカルクラシックのブログ

私の好きなクラシック音楽 その4

フランシスコ・エスクデロ ピアノとオーケストラのためのバスク協奏曲

スペイン音楽の源流とは

 スペインの音楽と聞くと、どのような音楽を連想するでしょうか?

 フラメンコのような情熱的な民謡、もしくは映画『禁じられた遊び』で用いられた『ロマンス』やロドリーゴの『アランフェス協奏曲』のような哀愁に満ちたギターの名曲を思い浮かべるのではないでしょうか?イスラムによる支配の影響で、少しエキゾチックな香りが加味された魅力的な音楽を好んで聴かれる方も多いのではないかと想像します。

 

  では、スペインの音楽をクラシックという括りでとらえると、今、私たちが想像するような音楽はどのような由来をもっているのでしょうか?

 スペインでおそらく最も尊敬され、愛されている作曲家といえば、『三角帽子』や『恋は魔術師』などで有名なマヌエル・デ・ファリャでしょう。素敵なピアノ小品もいくつも作曲しています。フランスで学び、ドビュッシーラヴェルらと親交を結んで、それら印象派の音楽と、伝統的なスペイン民俗音楽のリズムと、先人であるアルベニスグラナドスなどの音楽を融合し、その後のスペイン音楽の核となるスペイン印象主義を準備した偉大な作曲家です。印象派という形式が、ファリャの音楽表現の手段として、そしてスペインの民俗音楽を表現する手段としてこの上なく適合したのでしょう。あたかもそれが初めから自然とそこにあったかのように、大きなスペイン音楽の潮流を作り出したのです。

フランコ政権下の音楽

 フランコ政権と聞くと、ナチスとの協力関係などから悪い印象を持たれる方が多いと思われます。ですがスペイン音楽を考えるとき、その影響力は無視することはできないのです。

 ファリャはスペイン内乱で親友のガルシア・ロルカを殺されたため、アルゼンチンに亡命します。しかし、ファリャの音楽を心から愛していたフランコ将軍が、何度もファリャを呼び戻そうとしたこと、また紙幣にファリャの肖像を用いたことが知られています。

 そんなフランコの指導の下、ファリャのスペイン印象派の音楽を主軸とし、さらに民族色を前面に押し出したスペイン純粋主義が提唱され推し進められました。特徴としてはフラメンコなどの民謡を用いるなど民族色の濃いものであることや、スぺインの地名やスペイン独特の特徴ある名称(セレナータなど)が曲名に用いられたことなどが挙げられます。

 今回とりあげるエスクデロはスペイン純粋主義の作曲家の一人で『ピアノとオーケストラのためバスク協奏曲』は自らの出身地の名を冠した作品ということになります。

ピアノとオーケストラのためのバスク協奏曲

 フランシスコ・エスクデロFrancisco Escudero(1912-2002)はバスク地方出身のスペインの作曲家です。フランコ政権のもとで、いわゆる体制派の音楽家として活躍しました。

 彼の作品の中で最も有名で、私が気に入っているのは『ピアノとオーケストラのためのバスク協奏曲』です。

 スペイン純粋主義の特徴を色濃くもつ、いかにもスペイン的な曲で、同じくスペイン純粋主義音楽の代表格である『アランフェス協奏曲』にも通じるところがあると思います。例えば『アランフェス協奏曲』は第1楽章、第3楽章がフラメンコ、第2楽章がスペインの演歌ともいうべきコプラで構成されています。『ピアノとオーケストラのためのバスク協奏曲』の、少し哀しげでこの上なく美しい第2楽章もやはりコプラで、とりわけその第1主題はその特徴を顕著に表しています。この楽章の最後には5回、鐘の音が響くのですが、これはこの曲が挽歌という性格をもっているということなのでしょうか?

私の近頃のお気に入りの曲で、できるだけ多くの人にこの曲の良さを味わっていただきたいと強く思います。

お薦めの演奏

マルティン・イマズMartin Imaz(ピアノ)アタウルフォ・アルヘンタ盤

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 スペインの誇る名指揮者、アルヘンタによる指揮をベースにマルティン・イマズさんがピアノを弾いています。このピアニストに関して詳細が分からないのですが、存在感のあるとても良い演奏で、デル・プエロやソリアーノといった名ピアニストを多数輩出しているスペインのピアニストの層の厚さを感じます。ちなみに、当時19歳だったイエペスを起用して『アランフェス協奏曲』を演奏し、イエペスの名を一躍有名にならしめたのもアルヘンタです。プレイボーイとしても知られた彼ですが、事故による早すぎる死が悔やまれます。

 このCDは最近発売されたもので、22枚組にアルヘンタの魅力がぎっしり詰まった素晴らしいものになっています。『ピアノとオーケストラのためのバスク協奏曲』は是非、この演奏で聴いていただきたいものです。

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イマズ アルヘンタ盤

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イマズ アルヘンタ盤

まとめ

 「体制派の音楽」は大抵、批判され評価されにくい傾向があると感じています。しかし私は、体制とはあくまで一つの枠組みだととらえています。たとえそれが独裁政権下の人々であっても、そこを舞台としてそれぞれの、かけがえのない一つの人生をおくります。そこには間違いも、悩みも、喜びもあることでしょう。『ピアノとオーケストラのためのバスク協奏曲』、第2楽章の終わりの5回の鐘の音は、そんな人の一人であるエスクデロの心情の告白でもあるのかもしれません。鐘の音は死者への追悼を表すものです。音楽は時代を映し出す鏡のようなものでもあります。いずれにせよ、まず先入観をもたずに聴いてみて、そして調べてみて自分で判断すること、それが大切なのではないかという気がします。この曲が何度も繰り返して聴いてしまうような、そんな美しい曲であることに違いはないのですから。