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ヒストリカルクラシックのブログ

私の好きなクラシック音楽 その6

アルノ・ババジャニアン『ノクターン

清々しく時代を駆け抜けた作曲家

アルノ・ババジャニアンArno Babadjanyan1921-1983)という作曲家をご存知でしょうか?

前回、とりあげたアルチュニアンの友人で、同郷のアルメニア出身の作曲家、ピアニストです。

作曲家としてはアルメニア独特の民族音楽のテイストを含みながら、12音階技法を用いた『6つの絵画』から、簡潔なピアノ独奏曲『メロディーとユモレスク』まで、幅広いスタイルで楽曲をつくりました。そして、何よりも彼に特徴的なのは多数の歌謡曲を作曲したこと、また、今回とりあげる『ノクターン』や『Fantasy on <Give Me My Music Back>』のような、アルメニアンポップスに通ずるような、パーカッションやエレキギターを用いた哀愁のある楽曲を作曲したことです。

 

旧ソ連において、社会主義リアリズムの音楽は「形式的には民族的、内容的には社会主義的」であることが定義され、求められました。

しかし、正直なところ、この定義は曖昧で、実際、とても幅の広いスタイルの音楽が作曲されました。

ババジャニアンもそのような多様な音楽を作曲した作曲家の一人です。

 

ピアニストとしてはイグムノフ・スクールの一員です。つまり、ソ連のピアノ演奏における保守本流に属していたことになります。そのババジャニアンが新しい、エレキギターを用いた、歌謡曲のような曲を作曲し、自らピアノで演奏するようになるのですから、ソ連の音楽はとても奥深いと言わざるを得ません。

 

ババジャニアンはソ連人民芸術家、アルメニア共和国人民芸術家で、スターリン賞を受賞するなど、とても高い地位にいた音楽家です。しかし、彼の生き方を見ていると、何かに縛られるようでもなく、ニヒルにもならず、自由に、思うがままに音楽活動を行っていたように思えます。ネット上の動画などからも、ババジャニアンの自由で無邪気にも見えるパフォーマンスを観ることができます。まさに、ソ連という激動の時代を、自由に駆け抜けた幸せな音楽家で、その清々しい姿には憧れさえもおぼえるほどです。

ノクターン

ピアノとオーケストラ、パーカッション、エレキギターのための『ノクターン』です。現代の人が初めて聴くと、「ダサ格好いい」という感想を持つかもしれません。わざわざピアノ独奏にして演奏することもあるようですが、パーカッションとエレキギターが入った方が、ババジャニアンの清々しい生きざまの表現としては相応しいように思います。確かに、歌謡曲のような雰囲気があり、クラシック音楽の枠ではくくり切れないところがあります。しかし、単に音楽としてとらえたとき、とても素敵な音楽だということに違いはありません。

その他の曲を少し

『メロディーとユモレスク』は単純で簡潔なピアノ小品です。とてもアルメニア的で、哀愁を帯びた、ババジャニアンを代表する曲だと思います。とても好きな曲です。『ノクターン』と同じ路線の曲としては『Fantasy on <Give Me My Music Back>』があります。とても心地よいメロディーの曲です。少し映画『イル・ポスティーノ』のテーマ音楽に似ているような気がします。

ロシア・ピアニズムの四大教師

ソ連には、音楽史上重要な4人のピアノ教師がいました。

レニングラードのニコラ―エフとモスクワの3人、イグムノフ、ゴリデンヴェイゼル、ゲンリヒ・ネイガウスです。

ババジャニアンはモスクワ音楽院のピアノ科の先生、コンスタンチン・イグムノフの弟子になります。

イグムノフはチャイコフスキーの『四季』などで知られる、音楽史上重要な人物です。特に有名なところではフリエール、オボーリン、グリンベルグ、ボシュニアコーヴィッチなどの弟子を輩出しました。非常にロマンティクでトラディショナルな芸風が特徴です。それはババジャニアンにも見られる特徴で、つまり彼はロシアでもトップクラスのピアニストの一人なのです。

お薦めの演奏

①アルノ・ババジャニアンArno Babadjanyan(ピアノ)自作自演盤

 1980 Russian Compact Disc

自作自演のこのCDが一押しです。

ババジャニアンの粋な演奏が光ります。何も知らずにトラック1をかけると、おそらくとても驚くだろうと思います。それほど『ノクターン』は衝撃的な作品で、ほとんどクラシックの枠を超えています。このCDには現代音楽にカテゴライズされるであろう『6つの絵画』や、『メローディーとユモレスク』というとても美しい、哀愁にみちた小品も含まれています。まさにババジャニアンを堪能できる一枚です。

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ババジャニアン 自作自演盤

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ババジャニアン 自作自演盤

まとめ

ババジャニアンを聴いていると、クラシックやポップスなどの括りは何か意味をなすのだろうかと思えてきます。旧ソ連の音楽の幅の広さも感じます。ババジャニアンはクラシック音楽という括りにとらわれることなく、音楽そのものを愛していたのではないかと思います。そして、自分に正直に、すなおに作曲したからこそ、作曲に対するのと同じように誠実な演奏ができるのでしょう。上記のCDでは超一流のピアニストによる、歌謡曲的な一面を持つ、素敵な音楽の演奏を聴くことができます。あまりに開放的で、心のこもった曲と演奏です、好みに合わない人もきっといるでしょう。しかし、私はババジャニアンの無邪気で清々しい生き方も、その曲も演奏も大好きなのです。