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ヒストリカルクラシックのブログ

私の好きなクラシック音楽 その15

ウェーバー ピアノ・ソナタ4ホ短調 作品70

早逝の天才作曲家ウェーバー

 カール・マリア・フリードリヒ・エルンスト・フォン・ウェーバーCarl Maria Friedrich Ernst von Weber1786-1826)はドイツの大作曲家の一人です。オペラ『魔弾の射手』で有名な作曲家ですが、その才能にかかわらず、やや過小評価されている印象があります。特定の曲以外、演奏される機会がとても少ないのです。『魔弾の射手』序曲と他数曲以外に、なにかイメージをもたれている方は少ないのではないでしょうか。ピアニストでもあったウェーバーは美しいピアノ協奏曲曲や、ピアノ・ソナタ4曲残したほか、2曲の交響曲、多数のオペラなども作曲した重要な作曲家です。指揮者としては、初めて指揮棒を用いたひとでもありました。

 ウェーバーの生きた時代、1786年から1826年というのは、フランス革命の前夜から、ウィーン体制のさなかにあたります。ベートーヴェン1770年生まれで1827年に亡くなっていますから、ベートーヴェン16歳年下、その死の一年前に亡くなっている、つまりその生涯はベートーヴェンの生きた時代にすっぽりと収まっていることになります。ウェーバーの生涯は39年の短いものでした。結核を患っていたのです。

 その作風は独特で歌に満ち、初期の古典的作風から、ロマン派的な作風に移ってゆき、後のワーグナーへ大きな影響を与えました。シューマンブラームスとはまた違う、もうひとつの大きな流れをつくった作曲家だったのです。彼の曲に多く見られるワーグナー的な要素が、ある意味、ウェーバーに原石的な魅力を感じさせます。

 最晩年には、家族を養うため、結核をおして、ロンドンへ移ります。「私はロンドンへ死にに行くのだ」と語ったと言います。ウェーバーの曲を聴いていると、このような才能あふれる作曲家が早く亡くなってしまったことが残念でなりません。

ピアノ・ソナタ4ホ短調 作品70

 今回、とりあげるピアノ・ソナタ4ホ短調は、ウェーバーの作品の中でも後期の作品です。初期作品ではモーツアルト的ともいえそうな、古典派の性格が色濃い作品を作曲したウェーバーですが、ピアノ・ソナタ4番では、ロマン派的な色合いが強く感じられます。ベートーヴェンの後期のソナタと比べても、ひけをとらない大傑作だと私は思っています。

 作品の特徴は、何といってもそのメロディーの美しさです。そして清潔さをあげることができます。リストやワーグナーへの影響の大きさが分かりますが、ワーグナーのようなおどろおどろしさがなく、リストよりも更に清潔感があります。早逝の作曲家らしく、才能を処世術とすり替えなかった、純粋さを持ち合わせているようです。

 4楽章からなるこの曲は、基本的には緩急緩急の構成をもっていますが、それはかなり自由です。とても美しい緩やかなメロディーと、得意のアレグロが、まるで上品で色彩豊かな反物のようにこの曲を織り上げていきます。第一楽章の激しさの中に見られるロマンチックなメロディーや、第三楽章の可愛らしさを感じる冒頭からのメロディーと後半のドラマチックな盛り上がり。ウェーバーがいかに個性的で、才能豊かな作曲家であったかは、この曲を聴けばすぐにわかると思います。彼特有の歌のもつニュアンスに、ずっと聴き惚れてしまいます。

お薦めの演奏

レオン・フライシャーLeon Fleisher(ピアノ)盤 1959 PHILIPS

 アメリカ合衆国のピアニスト、フライシャー(1928-)はドイツの名教師、アルチュール・シュナーベルの門下です。フランスのコルトー、ロシアの4大教師に並ぶ、影響力の大きなピアノ教師と言えば、ドイツのシュナーベルだと思います。彼の門下には、他にカーゾン、フィルクスニー、ライグラフなどがいますが、フライシャーを含めて、レパートリーや演奏法に、先生の影響がすなおに表れているところがシュナーベル門下の特徴だと思います。つまり、非常に自然で、誇張の少ない、玄人の好みそうな演奏なのです。

 このフライシャーの演奏は、とても禁欲的で自然です。変わったことはしていないのに、詩情と歌にあふれています。ベートーヴェンを得意としたピアニストですが、この曲に対しても、ベートーヴェン的なアプローチをしているように思います。きっとフライシャーの愛奏曲だったのではないでしょうか。他にあまり演奏がないような曲であることが不思議ですが、フライシャー盤があれば十分だと思わせる演奏です。今回のお薦めは、この一枚です。

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フライシャー盤

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フライシャー盤

リヒテルのピアノ・ソナタ3ニ短調 作品49

 ロシアの大ピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテルウェーバーのピアノ・ソナタ3番を愛奏曲としていました。ロシアの4大教師の一人、ゲンリヒ・ネイガウスの弟子ですが、とても個性的な演奏をするピアニストです。ドイツものも得意とし、このウェーバーの第3番には、シューベルト的なアプローチをしているように感じます。この第3ピアノ・ソナタの演奏も素晴らしいので、記しておこうと思います。

まとめ

 39歳という若さで亡くなった、才能あふれる作曲家、ウェーバー。その作品には早逝の人ならではの純粋さを感じとることができます。39歳で亡くなったといえば、もう一人、ショパンが挙げられます。ショパン結核がもとで亡くなりました。この二人の作曲家、とても個性的であるところが似ていると思います。

 個性的であるということはとても大事なことです。古典派の時代にあって、モーツアルトともベートーヴェンとも異なる作風で作品をつくり、その魅力や完成度では、彼らに全く劣らないウェーバー音楽史でも重要な作曲家として挙げられるにもかかわらず、一部の曲しかとりあげられないことが多く、残念です。実は、私も、長らくその魅力に気がつきませんでした。もし、一度、試してみようと思われる方がいらっしゃいましたら、初めの一歩に、フライシャーのピアノ・ソナタ4番をお薦めします。目から鱗、きっとウェーバーの魅力を再確認することができると思います。